アップサイクルしてできたブランケットを広げる、山と道代表の夏目彰さん。

INTERVIEW15 生産工程でも無駄をなくす。山と道が探求する「捨てない物作り」| 夏目彰

2025.4.24

UL(ウルトラライト)ハイキングの大人気ブランド「山と道が、2024年3月、「捨てない物作り」というプロジェクトを立ち上げ、残生地を用いた製品作りを行いました。 

服の生産工程において、裁断後のハギレやくず、サンプル生地等の残りはどうしても生まれてしまうものですが、山と道ではどのようにそれを再利用したのでしょうか。

鎌倉にある大仏研究所を訪れ、山と道代表の夏目彰さんにお話を伺ってきました。


余った生地は徹底的に使い切り新たな製品へと生まれ変わらせる。 

今回、「捨てない物作り」を特集したきっかけは何だったのでしょうか。  

夏目 僕たちはULハイキングに大きな影響を受けて道具作りをしています。ULハイキングは、自分たちが良いと思うものを厳選して、極力無駄をなくして山に登ります。だから物作りにおいても、何かを捨てて無駄にしてしまうのは嫌だと思ってやってきました。製品に使わなかった生地、残反、裁断くずは全て捨てずに取ってあります。それがもう、膨大な量になってしまって...。さすがにどうにかしなければと思い、今回の企画がスタートしました。  

「捨てない物作り」から、どのような製品が生まれたのでしょうか。

夏目 まず、量産時にどうしても全て使いきれなかった生地を使い、製品作りを行いました。物やカラーによっては数着しか作ることができなかったけれど、そのまま少量限定で生産し、他の製品と並べて販売しました。また、「B反」「C反」と呼ばれる、製品基準に満たなかった生地も今回製品化し、スペシャルオファーとして少し割り引いて販売しています。そしてスペシャルオファーとしての販売も難しかったメリノールの生地は、ブランケットにアップサイクルしました。100% Merinoシリーズの袖口やリブに使った生地の残りなのですが、裁断した際の形をそのまま組み合わせてブランケットにしています。色によって残っている生地の量が全然違ったため、無駄なくどう組み合わせるかに苦労しました。その際さらに余ったハギレは、繋げてマフラーにしました。

まだ着られるものは修理して。眠っている服に、もう一度光を。 

メリノウール製品は、リペアも行ったと拝見しました。

夏目 っと在庫していたメリノウール製品に虫食い穴が空いてしまっていたので、それをショップのコミュニケーションスタッフが中心に修理しました。卸先の店舗でも、そういった理由で残っていたものがあったので、それも全て回収し修理しました。すごく時間をかけて作ってきたものなので、穴が空いたことで着られなくなったり、ゴミになってしまったりするのは避けたかったのです。修理して、もう一度輝かせてあげようという気持ちでした。スタッフも刺繍ミシンの使い方を覚え、修理の腕上がったと思います。お客さんには「可愛い」「面白い」という反応をいただきました。「穴が空いたらこうやって直したら良いんだ」とい情報をメッセージとして伝えることができたと感じています。

穴あきを補修するリペアワークショップも行ったですね。

夏目 まだ着ることができるのに、穴が空いたら終わり、となってしまうのは寂しいことだと思います。修理をすればもう少し長く使えるし、愛着も湧きますよね。そういった楽しみ方や、道具との付き合い方は僕からお客さんに伝えていきたいなと思っています。

インタビューを受ける夏目彰さん。

山と道の製品は、超軽量で機能性に特化したものが多いです。その反面壊れやすかったり、使い方を間違えると全然快適ではなかったり、危険になってしまったり、いった側面も持ち合わせています。そのため製品について、よく理解したうえで使ってもらおうと製品ページの文章はしっかりと書き、取扱店に関しても製品の説明がきちんとできるところに卸しています。また、ULハイキングを客さんに体験してもらい、そこで山と道の製品を使ってみてもらおうと始めたのが、「山と道HLC」というコミュニティです。国内7ヶ所と台湾に拠点を持ち、ULハイキングの文化を根付かせ、輪を広げています。製品ページに書かれている文章ではまだまだ伝え足りないこともあるので、こういったコミュニティや店頭で説明し、製品作りにかけた想いや熱量を少しでも多く伝えていきたいです。 

適切な生産数を見極め、作り過ぎ・売れ残りを防ぐ。  

製品の生産数については、どのように決めているのでしょうか。 

夏目 生地を作るところから始めているので、一年半くらい前から企画がスタートしています。生産数は、既存アイテムの売れ行きや残り具合を見ながら予測するしかないので正直とても難しいです。一般企業であれば、売れるものをどんどん作って売り上げアップを目指すかもしれませんが、僕は今、売上計画や売上報告を行なっておらず、在庫がちゃんと売り切れているかを基準にしています在庫が全てなくなるように、けれどもすぐに売り切れてしまうことがないように、適切な生産数を見極めることが重要なのです。利益に囚われると、過剰に在庫が残ったり、売らなくても良いものを売ってしまったりして、最終的に損になってしまうと僕は考えています。 

「捨てない物作り」の取り組みは、今後も続けていくのでしょうか。 

夏目 その方針を変えるつもりはないです。今回やってみたことで僕らが勉強できたこともたくさんあったので、それを活かしつつ、在庫や生地が残らないように上手く回していく方法を考えていきたいです。裁断くずも、どうにかして全てリサイクルできないかと模索しています。少しずつ取り組んで、形にしていきたいと思います。 

山と道の製品が並んでいる。

僕らはブランディングとしてリデュースやリペアに取り組んでいるのではなく、僕らの在り方がそうさせている。近年リサイクル繊維での服作りが増えてきていますが、それで大量に服を作って、大量に捨ててしまうのはおかしいじゃないですか。でも今回の企画をやるで、今のアパレル産業を取り巻く状況を知らなければと思専門の方に話を聞いたり、自分たちで分かる範囲で調べたりしました。その過程で、今ようやく本質的な議論が行われていて、僕らがやってきた「捨てない」という試みを、みんなが始めているなということを実感ました。僕らももっとそこに向き合っていかなければと感じています。 

大仏研究所ではプロダクトの開発や製造、修理が行われている。残生地の新たな活用について、スタッフの方から提案される場面も。

大仏研究所ではプロダクトの開発や製造、修理が行われている。残生地の新たな活用についてスタッフの方から提案される場面も。


まずは過剰に製品を作り過ぎないこと、そしてできるだけゴミの出ない生産工程を工夫し出来上がった製品は長く大切に使ってもらうようお客さまに想いを伝えていく...。服作りにおいて大切なことを、改めて教えていただけたようなインタビューでした。

山と道の製品作りについて、もっと詳しく知りたい方は、是非「捨てない物作り」の特集ページをご覧ください。

「捨てない物作り」特集ページ

夏目 彰

山と道の創立メンバー。山と道全体の監督。30代半ばまでアートや出版の世界で活動する傍ら、00年代から山とウルトラライト・ハイキングの世界に深く傾倒。2011年に山と道を夫婦ふたりではじめ、精力的な製品開発、鎌倉や京都や台北への出店、イベントやツアー、ウェブサイトを通じての情報発信など、新しいメーカーのあり方を模索しつつ活動中。

取材・執筆:熊沢紗世

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