楽しみ方は無限大。自然界の植物や微生物の営みに、循環を学ぶ一日 | 千葉 クルックフィールズ

2023.11.20

2019年、千葉県木更津市に誕生したクルックフィールズは、「農」「食」「自然」の循環を全身で感じることのできる、サステナブルファーム&パークである。約9万坪の敷地に、オーガニックファームや酪農場、養鶏場、レストランや宿泊施設、ビオトープなどがあり、来場者は様々なかたちで循環を体験することができる。

敷地の多くを占めるのが、約2万坪の広大な農場だ。ここでは、酪農場と養鶏場から出るフンや場内で出る落ち葉、雑草を堆肥化し、土づくりに使用している。農場長の伊藤雅史さんに、クルックフィールズの有機農業について伺った。

伊藤 おおよそ2年間飼育した鶏が、役目を終えて卒業するタイミングで、養鶏場の中に積もった鶏糞や餌の食べ残しを一気に回収して、この堆肥舎に持ってきます。それに少し水を加えるだけで、発酵が始まり、微生物が活発に動き出します。菌の働きによって発生する発酵熱は7080℃にもなり、そこまで温度が上がると、人間の身体に害のある菌は死滅し、不要な成分はアンモニアガスとなって外に出ていくのです。

大きな重機でかき回して空気を入れると、さらに発酵が進んで、温度が上がっていきます。冬場、かじかんだ足先を温めるのにちょうど良い温度ですよ(笑)。スタッフたちが卵を入れて、温泉卵を作ってみたこともありました。強いアンモニア臭が付いてしまって、食べられたものではなかったですが。匂いを通さない何かに包んで入れれば、鶏糞の発酵熱で温めた、温泉卵ができるかもしれません。

そして半年ほど経つと、水分や匂いが無くなり、畑に使える堆肥となります。堆肥は、見た目も匂いも土のようですが、畑に過剰に入れすぎてしまうと野菜が肥満状態になり、作物の成長を妨げ、不健康な作物には虫が寄ってきてしまいます。人間の食べ物と同じで、他の土とバランスよく混ぜて使う必要があるということですね。ここでは鶏糞以外に、牛糞や落ち葉からも堆肥を作っています。そのため、僕たちの農場で使い切れない分は、近隣の農家さんにお配りして、使っていただいています。

農場では、育てる作物に合わせて土を選んでいる。例えばトウモロコシは、長い根を伸ばしながら育つので、あえて固めの土に植えることで、地中の土をほぐすことができる。さらに、トウモロコシは多くの肥料を必要とするため、土の中にある過剰な養分を吸い取って成長するので、収穫後はバランスの取れた畑になっているという。

伊藤 農場や身近に手に入る資源をフル活用して土作りをしています。色んなものを組み合わせていく工程はクリエイティブで面白いです。農場では牛や鶏のフン、植物の葉など、なんでも再利用することができます。本当に捨てるものが無いんです。

遊具として使用していた竹を粉々にして置いていたら、自然分解し、キノコが自生した。

レストランで使っているテイクアウトボックスは、バガスというサトウキビの絞り粕の繊維からできています。これも、機械で粉砕したものを堆肥化すれば土に返すことができます。これだけだと水分が足りずに発酵が進まないので、水分の多い牛糞に混ぜると、1か月も経てば、どこに入れたか分からないくらい分解されています。動物由来の牛糞と、植物由来の繊維を混ぜると、バランスの良い土になります。料理のレシピみたいなものです。畑にまく前に土壌検査はしますが、実際に野菜ができるまでには2ヶ月~4ヶ月かかるので、上手くいくか分かるまでには少し時間がかかるんですけどね。収穫された野菜はレストランのお料理に活用されます。シェフから次はこの野菜を使ったメニューを出したいと、リクエストされることもありますよ。

現代美術家の淺井祐介さんによって、レストランに描かれた壁画。場内の土を使って色を表現している。

養鶏場で育てる鶏の餌は国産にこだわり、小麦や、おから、魚粉など栄養価が高く、近隣で手に入りやすいものをセレクトしている。

伊藤 おからは、通勤途中にある豆腐屋さんからもらってきます。おからは店頭で売られているものもありますが、毎日たくさんできるので、捨ててしまう分も多いのです。地域で調達すれば輸送コストもかからず、しかもたんぱく質が豊富で、鶏の栄養にもなります。魚粉は、食用にしない魚の骨や皮などを加工した餌です。以前は、魚の加工工場から鰹節をもらっていたこともありました。ただ、魚粉をあげすぎるとどうしても卵に生臭さが移ってしまうので、最近は、場内のソーセージ工場で加工に適さなかった猪肉を試験的にタンパク源として飼料化にトライしてします。近隣で獲れたジビエをすぐに処理場で加工しているため、新鮮でトレーサビリティーが確保されており、良質なたんぱく質を鶏に与えることができます。

カルシウムを多く含むかき殻も、餌に必ず10%程度加えるようにしている。

クルックフィールズの真ん中には、母なる池(マザーポンド)と呼ばれる大きな池がある。場内の水路を通って、レストランや宿泊施設の排水がマザーポンドに流れ込み、下流の農場へと流れていく。

伊藤 マザーポンドの手前にあるビオトープには、いろんな生き物が住んでいます。夏にはヤゴやゲンゴロウがいたり、秋口にはトンボが飛んでいたり。メダカやエビも。もうすぐ蛍も見られるのではと話しています。レストランからの排水は、浄化槽を通り、法律的に流しても良い状態になりますが、水の中には少しだけ有機物が含まれています。有機物が多いと『汚れている水』と思われがちですが、水辺に生える植物にとっては栄養分なのです。植物が栄養を吸いながら成長する過程で水は綺麗になっていきます。

伊藤 クルックフィールズには上下水道が通っていません。上水は地下水を組み上げ、滅菌して使います。下水はこの水路が浄化システムとしての役割を担い、水路に生えている植物の世話をするのが、適切な排水システムの維持に繋がっています。

今回ご紹介した以外にも、クルックフィールズにはシャルキュトリーやベーカリー、宿泊のできるタイニーハウスや、農や食、自然や文学など、農夫の書庫をイメージした地中図書館、そして点在アート作品と、一度には語り切れないほどの魅力がたっぷりだ。

伊藤 間口を常に広くすることで、様々な人に訪れてもらって、それぞれの楽しみ方をしてもらいたいと思っています。自然と寄り添う暮らしがベースにはあるけれど、僕らの考え方を押し付けたいわけではなく、まずは美味しい食べ物やここでの食事体験が訪れるきっかけになればと。学校の農業体験で来てくれる子どもたちには、実際に見て、触って、感じることのできることを意識して、プログラムに組み込んでいます。仕事の視察にいらした方が、次はご家族を連れて来場されたり、日帰りで来た方が、次は泊まりで来たりと、より深く楽しまれる方も増えてきました。これからも、ゆっくりと着実に、この施設を成長させていきたいです。


BRINGはこの秋、高尾山の麓に新店舗をオープンしました。

カフェ併設のアパレルショップから始まり、今後はワークショップ等のイベント開催、畑での農作物栽培、コンポストなど、BRINGの考える「循環」を拡張する場として展開していく予定です。

 

BRING CIRCULAR TAKAO
東京都八王子市高尾町2219

営業時間
水/木/金 11:00-18:00
土/日/祝 9:00-18:00

Instagram
https://www.instagram.com/bring_circular_takao