2021年7月31日、京都に日本初のゼロ・ウェイストなスーパーマーケット「斗々屋」がオープンしました。乾物や液体、オーガニックな野菜や果物、お肉やお総菜といった生鮮食品まで、たくさんの食材を量り売りで購入することができる、“ゴミが出ない”スーパーマーケットです。
INTERVIEW13 量り売りを、もっと身近に。日本初のゼロ・ウェイストなスーパーマーケット「斗々屋 京都本店」の挑戦。| ノイハウス萌菜
2025.2.5
今ではニュースなどで聞くようになった「ゼロ・ウェイスト」という言葉も、当時はまだメジャーではなく、斗々屋の取り組みはとてもチャレンジングなものでした。多くの消費者の方に利用してもらうため、これまでどんな工夫を重ねてきたのでしょうか。斗々屋の立ち上げメンバーであり、広報を務めるノイハウス萌菜さんにお話を伺いました。
豊富な品揃えで、暮らしに寄り添う地域のスーパーを目指す。
― 実際にお店に伺った際、棚にびっしりと並んだ商品の多さに驚きました。
最初は食品がメインだったのですが、エコな生活雑貨もどんどん増えてきました。食材は日々買わなければならないものだけど、生活用品は一度買えばしばらく使うことができるので、環境に優しい生活を始める最初の一歩になると思います。また最近は、量り売りできる商品自体のバリエーションもどんどん増えてきたように感じています。例えば、洗濯洗剤の量り売りは数年前まであまりなかったのですが、今ではいろいろなブランドのものが出てきて、私たちも商品を選べるようになってきました。
― 商品の仕入れ先はどのように決めているのですか。
品揃えに関しては、できるだけ誰もが見慣れているスーパーに近づけることを意識しています。「今、斗々屋には何が足りていないんだろう?」「ふりかけが必要だよね」「うどんもあるといいよね」というように、メンバーで意見を出し合ってリストアップしています。その中でもできるだけオーガニックや自然栽培に取り組まれている生産者さんのものを仕入れているのですが、そこからもう一段階、納品時にできるだけゴミを出さずに納品いただけるかというのも難しい点です。多くの生産者さんが斗々屋の思いに共感していただき、一緒に取り組んでいただけるのですが、食品の鮮度が落ちてしまったり、品質に問題が出てしまったりしては困るので、新しい納品方法を開発したこともありました。
― 納品されるときも、プラスチックなどの包装を避けているのですね。
特に国産のものは、再利用できる入れ物などで納品していただいています。京都のお店の中には、通い箱や通い袋(繰り返し使われる輸送用の箱や袋)で納品していただくところもあり、ベルギーの老舗ショコラティエは板チョコを納品・陳列するのにぴったりな木箱を特注で作ってくださいました。その板チョコ納品箱は、今では斗々屋専用ではなく、ヨーロッパの他の仕入れ先も使うようになったとのことです。昔ながらの方法を大切にしつつ、現代に合った仕様にどうアップデートしていくか、常に検討を重ねています。
― 京都の生産者さんから仕入れることは多いですか。
一番代表的なものは、納豆です。京都のお店で、私たちが販売しているオーガニックの大豆を使って作っていただいています。そもそも現代の多くの納豆は、発泡スチロールのパックの中で発酵するものなので、使い捨て容器ありきの生産です。そこをどう変えていくかと考えた時に、ステンレスのお弁当箱の中で発酵させて、その箱ごと納品していただくかたちにしました。お客様には箱の中に入っている400gくらいの納豆をそのまま買っていただくこともできるし、そこから好きな量を量って買っていただくこともできます。食べれば食べるほどプラスチックのゴミが出るという状況を、180度変えることができました。地元のお店だからこそできる循環の形だと感じています。
― 京都の生産者さんから仕入れることは多いですか。
もう売らなくなった商品は少ないです。どんどん品数が増えていく一方で…(笑)。私たちのゼロ・ウェイストの定義もオープン当初より広がり、リサイクル率の高い※アルミを使った缶詰や缶ジュース等の販売も始めました。基準を厳しくするばかりではなく、お客様が手に取りやすいものを導入することも大事なのではと考えています。
※近年、日本国内のアルミのリサイクル率は90%以上を維持している。
(https://www.alumi-can.or.jp/pages/98/)
量り売りのハードルを下げたい。お客様目線で考えたシステム作り。
― まだあまり量り売りが浸透していない日本でお店をオープンするにあたり、どのような工夫をされましたか。
お客様にとって面倒にならないように、できるだけ利便性を追求しました。その点で、寺岡精工さんが開発されたはかりの導入はとても大きかったです。量り売りというと、一対一の接客だと思われますが、斗々屋では基本的に全てお客様にセルフで行っていただいています。初めて来た方でも分かりやすく、購入しやすい仕組みづくりにこだわりました。ふらっと来た方が買えるように、レンタルの容器も提供しています。
― ポップに書かれている内容も、商品を選ぶ際の参考になりました。
商品を選んだスタッフの思いが溢れて、長くなってしまうんです。他のスーパーにはあまりないところですよね。お客様には、ゆっくり時間をかけて買い物していただきたいなと思います。斗々屋でのお買い物は、何グラム買おうとか、容器をどうしようとか考えるので、その分の時間がかかります。けれども、家に帰った後は、買ってきた瓶をそのまま棚に置き、ゴミも出ないのでとても楽です。買い物をする時間と、それを持ち帰った後の時間の割合が変わっただけではないでしょうか。無人のコンビニで買い物をするのは早くて便利だけど、その分ゴミの分別や捨てる行為など面倒なこともある。今の社会で忘れがちなことではないかと思います。
― オープンの際の反応はいかがでしたか。
「待ってました!」という声を多くいただきました。全国や海外からも、斗々屋めがけて、多くのお客様にお越しいただいています。日本初のゼロ・ウェイストスーパーということで、注目いただいているのだと思います。日頃サステナブルな生活をされている方からは、「ゴミが出なくて快適!」という感動の声も聞きました。最近では、飲食(併設されたレストラン)のほうにも力を入れているので、量り売りやサステナブルな取り組みに興味がある方が集まる、ハブのような場所にもなってきていると思います。
その場で絞って作る新鮮なピーナッツバターは大人気!
身近なお店から日本全国へ、量り売りの文化を広げよう。
― レストランでは、スーパーで販売されている商品を使った料理を出されているんですよね。
小売りだけだとフードロスが生まれてしまうので、レストランを併設することは斗々屋のビジネスプランを考えた当初から決めていたことでした。店内にキッチンがあると、生の野菜だけではなく、加工して漬物やソースにしたものも売ることができます。また、余りそうな食材はレストランのメニューで使い切るようにしています。大手スーパーの小売部門とお総菜部門が繋がれば、もっと食品ロスが減って、お店の売り上げにも繋がると思うのです。
無農薬/オーガニックなフルーツを発酵させて作る、しゅわしゅわ食感の発酵プティパフェ。
そういった店内商品を使ったレシピ開発も含め、企業でCSRを担当されている方や、ゼロ・ウェイストスーパーの立ち上げを検討されている方に向けて、ノウハウをお伝えするオンライン講座も行っています。これまで450名以上の方が受講してくださり、私たちがお手伝いしたお店が全国に120店舗くらいオープンしました。斗々屋のように必ずしも一つの店舗を全てゼロ・ウェイストにする必要はなく、いろいろなお店が少しずつゼロ・ウェイストの取り組みを始めれば、消費者の方の選択肢が増え、良いのではないかと思います。
― 読者の方々は、まだ量り売りでの買い物に挑戦したことがないという方がほとんどだと思います。どんなことから始めれば良いでしょうか。
地球環境のことを考えて仕入れや販売をしているお店に行くと、「すごいなぁ」と感じることは多いと思うけど、実は身近なところにも、量り売りやゼロ・ウェイストで買い物をできるお店がたくさんあります。私も近所のお総菜屋さんで買い物をする時はタッパーを持っていって、詰めてもらいます。そうしたら、後ろに並んでいた方が「そんなことできるんですか?私も次は持ってこよう」と言ってくれて…。意外なところでゴミを出さなくていい方法に気づいたり、ゴミだと思っていたものが、もう一度使えるものに見えてきたりすることがあります。まずは普段の買い物で、できることから始めてみてください!
今回のインタビューを行うにあたり、私も実際に斗々屋を訪れました。天井まで埋め尽くされた商品の多さに驚きつつも、商品を見て回る時間はとても楽しかったです。自分ではかりを使って、重さを量り、料金シールを印刷する手順は少し不安でしたが、案内に従って問題なく行うことができました。
量り売りでの買い物は包装紙やプラスチックゴミを減らすだけではなく、“ちょうどいい量”を買うことで、食品ロスを減らすことにも繋がります。さらに、今は食品だけではなく、洗剤などの日用品も量り売りされているものが増えてきました。皆さんの身近なスーパーや商店街ではどんなものが売られているか、一度視点を変えて探してみてはいかがでしょうか。
斗々屋ウェブサイト
ノイハウス萌菜
ドイツ生まれ、イギリス育ち。コンサルティング企業の会社員生活と並行し、環境問題に対するアクション(「のーぷら No Plastic Japan」)を始める。現在はJ-WAVEにて平日の帯番組「STEP ONE」を担当。日本初のゼロ・ウェイスト スーパーマーケット「斗々屋」の立ち上げメンバー・広報。
取材・執筆:熊沢紗世
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