「利益(分配可能額)の80%をアフリカに還元する」ことを掲げ、ファッションブランド「SHIFT 80」はケニアのキベラスラムで立ち上がりました。現地のアーティストやデザイナー、スラムで働く方々とともに、アフリカ産の原料や、大量に流れ着いた古着を使ったアップサイクルを行なっています。
INTERVIEW12 ケニア・キベラスラムで暮らす人々を、アイディア豊かな古着のアップサイクルで支援する。| 坂田ミギー
2024.10.4
そんなSHIFT 80の活動は、スラム街に住む女子生徒たちへの生理用品の支援から始まりました。今回は、代表 / クリエイティブディレクターを務める坂田ミギーさんにインタビュー。SHIFT 80の立ち上げを後押しした、いくつもの出会いやきっかけについて伺いました。
旅行中、偶然訪れた地で。キベラスラムに住む方々との出会い。
― 初めてケニアに行かれたのは、いつ頃だったのでしょうか。
坂田 2013年です。世界一周旅行をしている途中で、ケニアに元々興味があったというよりは、「せっかくだから寄っていこうか」くらいの気持ちで行きました。名前はよく聞く国だったし、空港も大きく、いろいろな国からの飛行機が飛んでいてアクセスも良かったので。アフリカでは、ケニアの他にナミビア、南アフリカ、レソト、モロッコにも行きました。
― キベラスラムにも、その時行かれたのですか。
坂田 最初はケニア北部のトゥルカナ湖に行こうとしていたのですが、治安が悪すぎて、どの旅行会社にも行けないと断られてしまって…。やることなくなったなぁと思っていた時に、ちょうどスラム街が目に入って、「スラム行ったことないから行ってみよう」くらいの軽い感じで決めました。調べてみたら、現地のコミュニティの方々がやっているツアーがあり、ガイドフィーを払うとコミュニティの支援になるというものだったので、それを利用してみました。工場を案内してくれたり住んでいる方の家を見せてくれたりするのですが、何度か訪れるうちに、少しずつ気の合う仲間ができてきて、今一緒にSHIFT80の事業を行なっているデザイナーやテーラー、アーティストたちとも仲良くなりました。
― 今でもスラムに行かれる際は現地の方と入るのですか。
坂田 セキュリティは必ず雇うようにしています。やはりスラムは、気をつけていないと危ないところです。地元で有名な人と歩いていれば、「あの人と一緒にいるから襲わないでおこう」と思ってもらえます。時々、自分たちだけでスラムに行こうとしている方から連絡をもらうことがあり、その探究心はすごいなと思うのですが、危ないので必ずガイドは付けてとお伝えしています。
女子生徒への生理用品のサポートを、自分ひとりでも続けたかった。
― その後、どういった経緯で生理用品の支援を始めたのでしょうか。
坂田 キベラスラムに友達ができたので、世界一周の旅を終えた後も、ケニアには遊びにいっていました。中でもスラム街の小学校にはよく行っていたのですが、ある女の子がしばらく学校に来ていないことがあったんです。最初は風邪を引いたのかなと思っていましたが、生理用品が買えないから、生理期間中に学校に来られないんだということに途中で気がつきました。そこで女の子たちを集めて生理の時どうしているか聞いてみたら、9割以上の子が学校を休んで、家でじっとしているしかないと教えてくれたのです。生理用品の代わりに何を使っているのか聞いてみると、古い新聞紙やボロボロの雑巾を買って、股に挟んでいるらしくて…。それで感染症になったり、子宮系の病気になったりする子は多いと聞きました。
坂田 それは何とかしなければいけないなと思っていたタイミングで、帰国後、生理用品メーカーさんの新商品広告のご依頼をいただいたんです。CMやキャンペーンの提案の中に、スラムの子どもたちに生理用品を配るサポートを入れて提案してみました。すると先方から「是非支援したいです」と言ってくださり、2018年から2年間、その会社がスポンサーとなって生理用品の支援プロジェクトを行うことができました。スポンサーは2年で終了しましたが、とても感謝しています。しかし、ここで支援を止めると、女の子たちの生活は元に戻ってしまいます。3年目からは、自分の会社の利益でそのプロジェクトを続けることにしました。
現地のファッションデザイナーと、手作業で行う古着のアップサイクル。
― SHIFT 80立ち上げのきっかけは、何かあったのでしょうか。
坂田 新型コロナウイルスのパンデミックが起こり、私も、ケニアに住む友人たちも仕事が減ってしまった時期がありました。私は「暇だな」くらいで済むけど、彼らにとっては生活がままならなくなるほどのことで、それならば、現地の雇用を増やし、売上も彼らに還元できるような事業を始めようと「SHIFT 80」を立ち上げました。それが2022年のことです。
― ファッションに携わるのは初めてのことだったと伺いましたが、服のデザインはどのようにされているのですか。
坂田 キベラスラムに住んでいる、ファッションデザイナーのリリアンにお願いしています。彼女はファッションが大好きで、デザイナーを目指していたけれど、縫製の学校に通うのは難しく、スラム街にある服を仕立てたり、お直しを引き受けたりするお店で店番のバイトをしながら、店のミシンを使って練習していたそうです。スラムにはヨーロッパやアメリカ、アジアから大量の古着が入ってくるので、それを見て、縫い方や服の構造を勉強したというのですが、なんとかしてファッションを学びたいという意志を感じますよね。今はSHIFT 80のデザイナーをしながら、仕事がないシングルマザーや学校に行けなかった女の子たちのために、洋裁を教えています。
― 最初はアフリカ産の生地を使った服作りをされていたんですよね。古着を使うようになったのはどうしてですか。
坂田 世界中に服は飽和しているのに、また私たちが新しい服を作る必要はないと考えたからです。現地で古着を調達して、アップサイクルをしたら面白いのではと思いました。古着の仕入れとデザインはオリバーという青年にお願いしています。彼は両親が古着の卸をやっていて、小さい頃から古着に囲まれた生活をしていたので、古着と古着を組み合わせるセンスに長けていたんです。
― ルックの撮影される際のモデルさんも、現地の方を起用されていますね。
坂田 スラムは大体口コミで広まっていくので、「モデルを募集してます」っていうのを流しておいてねと言っておいて、集まった人たちに必ず一回ずつはモデルをしてもらいます。みんなInstagramやFacebookで見た、憧れのモデルのポーズやコーディネートを参考にしているようです。先日3回目の撮影をしたシャロンという女の子は、家で鏡を見ながらポージングの練習をしていると言っていました。
ケニアのギコンバマーケットには、世界中の古着が流れ着く。
― ケニアの方はみんなとてもお洒落ですよね。
坂田 私もどうしてこんなにお洒落なのかなと思って、ギコンバマーケット(ケニア最大の古着市場)に連れていってもらったことがあるんです。すると、それはもうすごい量の古着があって!一着50シリング(約60円)で売られていました。どんどんと服が運ばれてくるのですが、4割くらいは着られないものが混ざっているそうです。かといって仕入れた人も自分で処分できるわけではないので、そのままポイッと捨ててしまいます。もちろんその中には、石油由来のポリエステルなどで作られた服も含まれていて、それが雨でマイクロプラスチックとなって、河川に流れていきます。
これは、ギコンバマーケットの次に大きい古着市場「トイマーケット」。
― ゴミが山のように積み上げられている写真や映像は見たことがあります。
坂田 ゴミ回収のシステムが整っていないんですよね。中間層以上の家はゴミをちゃんと回収してもらえるのですが、スラム街では回収されるのは一部だけ。回収作業も有料であることが多いので、ゴミをその辺に捨ててしまいます。
手前がキベラスラム。塀の向こう側は富裕層が利用するゴルフ場になっている。
― 古着以外の服は、いくらくらいで売られているのですか?
坂田 新品に関しては、物価の感覚は日本とあまり変わりません。ショッピングモールに入っているブランドではTシャツが2,000~3,000円くらい。コートが1万5,000円くらいです。ただ欧米の状態が良い古着が数百円で買えるのに、ケニア産のそこそこの値段がする服を買う人が、どれだけいるのかという話になりますよね。現地の繊維産業は稼げないので、辞めてしまう人が多いです。昔はコットンや生地を作っていた工場がたくさんあったのですが、今は1/4程度まで減りました。私たちはSHIFT 80の活動を通して、失われつつあるケニアのものづくりや、クリエイティビティを発信できたらと思っています。
― スラムの方々の話を聞いていて、皆さんの夢を実現しようという強い意志や行動力に感心するばかりです。私は何かしたいと思っても、一歩を踏み出せないことが多いので。
坂田 私も2013年に初めてスラムに行って、いろいろなことを見聞きしたけれども、すぐに何かを始めたわけではないです。人生のどこかで、「今できそうだな」と思う時があると思います。たまに大学生から「スラムに行ったけど、私には何もできないです…」というメールをもらうことがありますが、それはできるタイミングがきたらやれば良いんです。今は、日々を一生懸命過ごすことが大切じゃないかなと思います。動き出す出会いやきっかけは、何かを始めたいと思っている人には必ず訪れるはずですよ。
スラム街が古着やゴミで溢れ、環境の悪化が懸念されるケニアですが、その過酷さ以上に、現地で生きる若者たちの力強さを感じるインタビューでした。
SHIFT 80のSNSをフォローすると、1フォロワーにつき給食1食が、ハッシュタグ「#shift80」を付けた投稿1件につき生理用品1パックがアフリカに届きます。まずは、SHIFT 80のInstagramをフォローして、アフリカ、ケニアに住む人々の暮らしに関心を持つことが、私たちにできる第一歩ではないでしょうか。
坂田ミギー
広告制作会社、博報堂ケトルを経て、株式会社こたつを設立。旅の途上で出会ったアフリカの孤児・貧困児童と女性へのサポートを目的とした、分配可能な利益の80%以上をシェアするエシカルアパレル「SHIFT 80」代表。旅やキャリアに関するエッセイ執筆、講演、キャンピングカーをモバイルオフィス&家として、日本各地を旅しながら働くスタイルを実践するなど、複数の仕事や活動を同時並行で行なっている。
取材・執筆 熊沢紗世
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