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衣料品回収はこうして始まった―― “予言の書”に描かれた循環型リサイクルの設計図

2026.7.29

現在、JEPLANは衣料品やペットボトルの循環型リサイクルを推進する企業として知られています。しかし、その原点は現在の事業とは少し異なるかたちでした。

 

私たちが向き合っていたのは、「廃棄物を資源に変える」という、より根源的な課題です。

 

2000年代後半、日本では大量の衣料品が廃棄されていましたが、その多くは焼却や埋立てに頼っており、衣料品を資源として循環させる仕組みは、まだほとんど存在していませんでした。

 

そうしたなか、日本環境設計株式会社(現・株式会社JEPLAN)は、使用済みの綿製品からバイオエタノールを生産する技術の開発を進めていました。愛媛県今治市では実証実験も行われていましたが、技術だけでは社会実装には至りません。

 

課題は、原料となる衣類をどのように集めるのか小売企業やリサイクル事業者とどのように連携するのか、そして消費者に回収の仕組みをどう届けるのかという点にありました。

 

こうした課題に向き合うため、2009年度に実施されたのが、経済産業省および中小企業庁の支援による「繊維産業に係る平成21年度情報提供事業」です。衣料品の店頭回収から再資源化までを実際に検証しながら、将来の資源循環システムの可能性を探るプロジェクトでした。

 

その成果が、『繊維製品リサイクル調査報告書』にまとめられています。

この報告書は後に「予言の書」と呼ばれるようになります。そこには、現在のJEPLANやBRINGにつながる数々の構想がすでに描かれていました。

A white document with text in Japanese, slightly stained on the top corner.

繊維産業に係る平成21年度情報提供事業 繊維製品リサイクル調査報告書

本記事では、この「予言の書」と呼ばれる調査報告書を手がかりに、JEPLANが描いていた資源循環の構想と、その後の事業とのつながりを振り返ります。


「あなたの服を地球の福に」――FUKU-FUKUプロジェクトの挑戦

調査事業と聞くと、報告書の作成やアンケートによる市場調査を思い浮かべるかもしれません。しかし、この事業で行われたのは机上調査だけではありませんでした。日本環境設計は実際に小売企業と連携し、店頭での衣料品回収実験を実施しました。

 

第1回回収実験(2009年8月~10月)に参加したのは、株式会社ワールドと株式会社良品計画の2社です。消費者が店頭に持ち込み回収された衣料品は、各社の物流センターで一時保管された後、日本環境設計が引き取り、リサイクル工程へと回されました。また、持ち込みを行った消費者にはアンケートへの協力が依頼され、回収に対する意識や行動についても調査が行われました。

 

この段階から、単に「どう回収するか」だけでなく、「どのように消費者に参加してもらうか」が重要なテーマとして設定されていました。

 

当時、衣料品回収や繊維製品リサイクルは、まだ広く一般に認知されている取り組みではありませんでした。そこでプロジェクトでは、消費者に親しみを持って参加してもらうためのブランドづくりにも取り組みます。 採用されたプロジェクト名は「FUKU-FUKUプロジェクト」。キャッチコピーには「あなたの服を地球の福に」が掲げられました。また、後にBRING回収のシンボルとして親しまれるハチマークも、このプロジェクトから生まれています。回収に協力した人には、ボールペンやクリアファイルなどのノベルティも配布されました。

Cartoon bee with blue shirt and wings on a beige background.

どのような言葉なら関心を持ってもらえるのか。どのような見せ方なら参加したくなるのか。FUKU-FUKUプロジェクトでは、回収の仕組みとあわせて、消費者とのコミュニケーションのあり方も検証されていました。

 

この実験に参加したワールドと良品計画は、その後それぞれ独自の衣料品回収へと取り組みを広げていきました。こうした流れから、この回収実験は、日本における店頭回収の初期の実証事例の一つだったと言えるでしょう。

数のリサイクル技術を組み合わせた検証

店頭回収実験で集まった衣料品は、単に回収されただけではなく、さまざまなリサイクル技術の検証に用いられました。

 

当時、繊維製品のリサイクル技術は主に合成繊維メーカーを中心に開発されていましたが、その多くは製造情報が明確な「産業廃棄物」(工場からでた裁断くずや規格外品、企業が回収した自社指定の制服など)を対象としたものでした。一方で、一般消費者から回収される衣料品は、メーカーや素材構成が多様で、製造工程に関する情報が限定されているという特徴があります。

 

こうした一般衣料をリサイクルするためには、単一の技術では対応できず、複数の技術を組み合わせたシステムが必要となります。素材に応じて最適なリサイクル方法を選択するという考え方は、この段階で既に示されていました。

 

具体的には、それぞれの素材や状態に応じて適切な資源化ルートへつなげるため、以下のような多様なリサイクル技術の検証が行われました。

  • 日本環境設計(現・JEPLAN)綿繊維由来バイオエタノール製造技術

  • ナカノ株式会社自動車内装材化やウエス(工業用雑巾)化などのマテリアルリサイクル

  • 東レ株式会社ナイロン6のケミカルリサイクル

  • 帝人ファイバー株式会社ポリエステルのケミカルリサイクル

  • 新日本製鐵株式会社コークス炉化学原料化法

日本環境設計が担当した「綿繊維からバイオエタノールを製造する技術」の検証では、店頭で回収された綿製品に加え、綿とポリエステル、あるいは綿とナイロンといった混紡製品も対象として実験が行われました。

 

その結果、いずれの製品からもバイオエタノールを生産できることが確認され、回収された衣料品中の綿繊維を資源として活用できる可能性が示されました。この取り組みは当時、テレビ東京系列の経済番組『ガイアの夜明け』でも紹介され、大きな反響を呼びました。

テレビ東京「ガイアの夜明け」2009年11月17日放送回

回収実験の結果と、参加者からのフィードバック

回収実験には39店舗が参加し、1,787人の消費者から8,416枚の衣料品が集まりました。

初めての実証実験でこれほど多くの衣料品が集まった背景には、消費者の「服への想い」と「環境への意識」がありました。 

 

参加者アンケートの中で最も多く見られたのは、「服をゴミとして捨てることに抵抗がある」という声です。実に全体の約8割が、不要になった衣服を廃棄することに抵抗を感じていました。 

 

「まだ着られるのに捨てるのはもったいない」「愛着があるからこそ、ゴミではなく次につながる形で手放したい」――こうした声が多く寄せられています。一方で、参加の動機としては「環境保全に貢献したい」「リサイクルに協力したい」といった意識に加え、「クローゼットの整理の一環として」という実用的な理由も見られました。 

 

また、回収した衣服の行き先に対する関心も高く、古着として再流通させる「古着販売(リユース)」や、燃料として熱利用する「サーマルリカバリー」と比較し、「新しい資源へと再生するリサイクル(再資源化)」に対する期待が高い傾向が見られました。 

 

不要になった服がどのように循環するのか」というプロセスそのものが、参加意欲に影響していることがうかがえます

回収実験を繰り返すことで、見えてきた課題

さらに、その後の衣料品回収をより良い仕組みにしていくためのヒントも集まりました。 

 

  • ノベルティよりも「割引券」への期待

「おまけのグッズをもらうより、次のお買い物に使える割引券が欲しい」という声が多く見られました。実際、「割引券があれば次の購入意欲が高まる」と回答した人は95%にのぼり、サステナブルな行動がそのまま購買行動につながる可能性が示されています。

 

  • 回収範囲を広げてほしいいう前向きな要望

「他社ブランドの服も回収してほしい」「衣料品だけでなく、タオルなどの繊維製品も対象にしてほしい」といった、回収対象の拡張を求める声も、消費者・店舗スタッフの双方から寄せられました。

 

一方で、店舗スタッフからは運用面での課題も多く挙がりました。特に、セールなどの繁忙期においては、衣料品の受け取りやアンケート対応、ノベルティの受け渡しに十分な時間を確保することが難しく、通常業務への負荷が指摘されています。

 

そのため、スタッフの負担を軽減し、利用者もより気軽に参加できる仕組みとして、「店頭に常設の回収ボックスを設置する」といった改善案が検討されました。

 

また、回収された衣料品をリサイクルセンターへ輸送する物流面でも課題が見つかりました。不定期な集荷は店舗側の負担となるため、今後は既存の配送業者のルートに組み込むなど、物流の仕組み自体を標準化していく必要性が示されています。

 

こうした課題をさらに整理・検証するため、2010年1月から2月にかけて2度目の回収実験が実施されました。このときは、株式会社良品計画、イオンリテール株式会社、株式会社丸井グループ、株式会社赤ちゃん本舗の4社が参加しています。 

 

これらの回収実験で得られた知見は、その後の衣料品回収の設計において重要な基盤となっていきます。

実証実験から事業化へ、広がり始めた循環の仕組み

2010年6月、丸の内のエコッツェリアにて、実証実験の成果とともに、日本環境設計(現・JEPLAN)が、企業と消費者が一体となって衣料品を循環させるプラットフォーム「FUKU-FUKUプロジェクト」を正式に事業化し、スタートすることが発表されました。

Fashionsnap|FUKU-FUKUプロジェクト開始記事

 

本格始動にあたり、ブランドの垣根を越えて6社の大手小売・アパレル企業が初期パートナーとして参画しました。

  • 良品計画  

  • エドウイン  

  • 丸井グループ  

  • イオンリテール  

  • らでぃっしゅぼーや  

  • アメリカ屋

 

ジーンズブランドから大型商業施設、百貨店、宅配サービスまで、多様な販路を持つ企業が集まり、「自社で販売した衣料品のその後」に向き合う取り組みが始まりました。それぞれの企業が、自社の特性に応じた形で衣料品回収の仕組みを展開していきます。

 

また実証実験では、ポリエステルやナイロンのマテリアルリサイクル、コークス炉原料化など、複数のリサイクル技術も検証されています。こうした取り組みは、現在のBRINGにおける「素材や状態に応じて最適なリサイクル手法を選択する」という考え方の原型となっています。


こうして振り返ると、日本環境設計(現・JEPLAN)の「予言の書」に描かれていたのは、単なる技術開発の記録ではなく、回収・再資源化・消費者参加・企業連携までを一体で捉えた「循環を生み出す仕組み」の設計図だったことが見えてきます。

 

FUKU-FUKUプロジェクトで検証された一つひとつの問い――どのように集めるのか、どのように選別し活かすのか、どうすれば人は参加したくなるのか――は、その後のBRINGやJEPLANの事業の中で、かたちを変えながら実装されていきました

 

FUKU-FUKUプロジェクトのシンボルであるハチのマークは、その後BRINGへと引き継がれ、「みんなで集めて、みんなで循環させる」という思想を象徴する存在として受け継がれています

 

ハチマークの誕生については、生みの親であるグラフィックデザイナー・新村則人さんへのインタビュー記事で、その背景を詳しく紹介しています。是非こちらも合わせてご覧ください。

BRING TALK SESSION 01 ハチマークの生みの親 | 新村則人 -前編-

BRING TALK SESSION 01 ハチマークの生みの親 | 新村則人 -後編-

執筆:熊沢紗世

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