私たちHIVE編集部が訪れたのは、カフェや雑貨店が点在する自由が丘。
「ONIBUS COFFEE」のようにサステナブルなコーヒーを丁寧に淹れる店や、エシカルな視点でセレクトされた雑貨を扱う「MY CHOICE MY LIFE」など、静かで穏やかな時間が流れるこの街で、初めての金継ぎを体験しました。
私たちHIVE編集部が訪れたのは、カフェや雑貨店が点在する自由が丘。
「ONIBUS COFFEE」のようにサステナブルなコーヒーを丁寧に淹れる店や、エシカルな視点でセレクトされた雑貨を扱う「MY CHOICE MY LIFE」など、静かで穏やかな時間が流れるこの街で、初めての金継ぎを体験しました。
今回体験を行った「金継ぎ暮らし」は、東京都と埼玉県でレッスンを開催している金継ぎ教室です。 「金継ぎを、暮らしに。」をコンセプトに、本漆の金継ぎはもちろん、初心者でも取り組みやすい簡易金継ぎも教えています。 また、廃棄予定だった器を体験用に活用するなど、ものを大切にする姿勢も特徴です。
私は、縁が欠けてしまったお気に入りの茶碗を持参しました。同行した中村が持ってきたのは、落として割れてしまったショットグラス。どちらも、捨てるには惜しい思い入れのある器です。
もし直せるなら、また使いたい。
そんな思いを胸に、教室の扉を開きました。
初心者でも体験できる?本漆と簡易金継ぎの違い
今回教えていただくのは、講師の萩原裕大さん。教室で指導を行う傍ら、漆芸作家としても活動されています。
作業に入る前に、まずは金継ぎの種類について教えていただきました。
一般的にイメージされる金継ぎは、本漆を使って少しずつ仕上げていくものです。完成までに1〜2か月ほどかかることもあり、温度や湿度の管理も欠かせません。
一方、今回体験するのは「簡易金継ぎ」。扱いやすい材料を使うことで工程を短縮し、数時間で仕上げることができます。金継ぎ暮らしでは食品衛生法に適合した素材を採用しているため、修理後も食器として使用できるそうです。
壊れた器を、もう一度使えるかたちでよみがえらせる。
それは、金継ぎ暮らしが大切にしていることのひとつなのだと感じました。
金継ぎ体験スタート|欠けた器を、自分の手で直していく
<エポキシパテで欠けた部分を埋める>
説明を聞いた後は、いよいよ実際の作業に入ります。
最初は、欠けてしまった部分を埋める工程から。エポキシ樹脂のパテを手に取り、指で折りたたむように練り合わせていきます。
濃いグレーと薄いグレー、二色の樹脂が同じ色になるまでしっかり練るのがポイントです。このとき主剤と硬化剤が反応し、欠けた部分にのせるとおよそ10分で固まります。
色が均一になったら、竹串を使って茶碗の欠けた部分にパテを埋めていきます。竹串をさまざまな角度から当てながら、側面の高さと揃っているか、横から見て膨らんでいないか、凹んでいないかを確認し、少しずつ形を整えていきます。
竹串をくるりと回すように動かすと、表面がなめらかになります。とはいえ、ここで完璧に仕上げる必要はありません。次の工程で削って整えることができるため、多少の凹凸は問題ないそうです。
パテを盛って、整えて、少し離れて見て、また直す。茶碗を手の中で回しながら、その作業を何度も繰り返しました。
<紙やすりで形を整える>
しばらくするとパテが固まり、次は削る工程に入ります。紙やすりを使い、水をつけながら表面を整えていきます。
使うのは、目の粗いものと細かいものの2種類。粗い紙やすりは高さを落とすのに適していますが、器の表面に当たると傷が付いてしまうため、小さく折り曲げてエポキシパテだけを削ります。輪郭の境目を整える際には、目の細かい紙やすりに持ち替えます。こちらは柔らかいため、多少はみ出しても大丈夫です。
この作業は、思っていた以上に時間がかかりました。ほんの少しずつしか削れないので、黙々とやすりを当て続けます。
見た目には整ったように見えても、指で茶碗の縁をなぞると、まだわずかな段差が残っています。パテを削る音と器に当たる音の違いにも耳を澄ませながら、目だけでなく指先や耳も頼りに作業を進めました。
やすりを二重、三重に折り曲げたり、棒状にしたりと工夫を重ねるうちに、会話も自然と途切れ、目の前の作業だけに集中していました。
最後は、はみ出したエポキシパテを彫刻刀のような刀で削っていきます。
漆職人を取り巻く現状と、金継ぎがつなぐ修理文化
削る作業の合間に、萩原さんが金継ぎを取り巻く背景について話してくれました。
なかでも印象に残ったのが、漆をめぐる現状です。
現在、日本で流通している漆のほとんどが海外産で、国産の漆は多くありません。漆の木は樹液を採取できるまでに10年ほど育てる必要があり、一本の木から採れる量もごくわずかだといいます。
さらに、日本の漆は「殺し掻き」と呼ばれる方法で採取されるため、樹液を取り終えた木は伐採されます。再び採取できるようにするには、新たに植え、長い時間をかけて育てなければなりません。
また、漆に関わる職人の数も減少しており、後継者不足などの課題を抱えているとのことでした。
伝統的な金継ぎで使われてきた駿河炭とトクサ(砥草 )。どちらも研磨で使用する。
教室では体験の参加費の一部を、漆の植林や職人の活動支援に充てています。まずは体験として金継ぎを知ってもらい、漆や職人へ関心を持ってくれることを目指しているそうです。
金継ぎへの関心は近年広がっており、教室には海外から訪れる人も少なくないといいます。
「『割れたら捨てる』じゃなくて、『直せばいい』って思える人が増えたら嬉しいですね」
そんな萩原さんの言葉を聞きながら、再び目の前の器に向き合いました。
金継ぎ体験を終えて | 「傷を直す」という選択肢
<金色を入れて仕上げる>
ここから、いよいよ金色を入れる作業です。
仕上げに使うのは、金粉を混ぜたレジン。本来の金継ぎでは漆の上に金粉を蒔く「蒔絵」という技法が用いられますが、簡易金継ぎではレジンと金粉を混ぜたものを塗って仕上げます。
グレーの補修部分を金色でなぞっていくと、一気に「金継ぎらしさ」が現れました。ここまで削って整えてきたラインを仕上げる工程だけに、はみ出さないよう慎重に筆を進めます。
「金継ぎを金色で仕上げる理由は、まだわかっていません。『金ってかっこいいよね』っていうのもあると思います」
萩原さんはそう言って笑います。
金継ぎは伝統文化というイメージがありますが、もっと自由に楽しんでよいものなのかもしれません。
完成した器を眺めながら、そんなことを考えていました。
気づけば、作業を始めてから2時間以上が経っていました。けれども、作業に集中していたせいか、その長さはほとんど感じません。
金継ぎは思っていたよりもずっと身近なものでした。傷も器の一部として受け入れながら使い続ける。その考え方に触れられたことこそ、この日いちばんの発見でした。
再びこの茶碗でご飯を食べられる日が、今から楽しみです。
【NEXT ACTION】
毎日の暮らしの中で、器や身の回りのものが壊れてしまったとき。そのまま手放してしまった経験がある人も多いのではないでしょうか。
けれども、「直せるだろうか」と一度立ち止まって考えてみるだけでも、選択肢は変わります。
修理を依頼する、自分で直してみる、あるいは金継ぎのような体験に参加してみる。方法はさまざまです。
次に何かが壊れたときは、捨てる前に「直す」という選択肢をぜひ思い出してみてください。
金継ぎ暮らしウェブサイト
取材・執筆:熊沢紗世
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