Four people engaged in conversation, with one demonstrating a tool or device.

BRINGの奇跡の商品 WUNDERWEARを支える繊維工場を訪ねて【前編】

2026.10.20

8月のある日、私たちは山形県寒河江市にある老舗ニットメーカー「佐藤繊維」を訪ねました。

 

佐藤繊維とBRINGは、メリノウールと再生ポリエステルで作られた「WUNDERWEAR」シリーズの製造をともに手がけてきました。縫い目のないホールガーメント製法で作られた、防臭・調温性に優れた「WUNDERWEAR "ONE" 50/50」や「WUNDERWEAR シームレスフーディー」は、BRINGの主力アイテムとして多くの方に愛されています。

 

世界中のブランドから注目を集める、独自の糸づくり。そして、原料の調達から紡績、染色、編み立てまでを一貫して行うその背景には、四代目社長・佐藤正樹さんをはじめ、社員の方々のものづくりへの並々ならぬ想いがありました。


なぜウールは、古くから人々に選ばれてきたのか

工場見学の冒頭、佐藤社長にウールという素材の本質について教えていただきました。

Person sitting at a table, profile view, with long white hair.

佐藤繊維株式会社 代表取締役 社長・糸作家 / デザイナーの佐藤正樹さん。

「ウールは、人類が8,000年ほど前から衣料として使ってきた、究極の機能性繊維です。例えば、綿は水分を吸収しやすく、一度濡れるとなかなか乾きません。雑菌が繁殖すると、臭いの原因にもなります。一方、ウールは湿気を吸収しながらも、繊維そのものが水を弾きやすい性質を持っています。さらに、1本1本の縮れ(クリンプ)によって空気の層が生まれ、体温を調整するため、夏は涼しく冬は暖かい。しかも、数日着続けても臭いにくいという、優れた防臭性も持っています」 

こうしたウールの機能は、羊が厳しい環境の中で生きるために身につけてきたもの。植物繊維やシルクとは異なり、もともと「体を保護する」ために生まれた繊維なのだといいます。

では、そんなウールは、いつ日本にやってきたのでしょうか。

 

「もともと日本には羊がおらず、衣類の素材は麻や綿が中心でした。明治時代に入り、欧米の文化を取り入れる中で、特に軍服としてのウールの重要性が認識されたのです。極寒の地での戦闘において、ウールがなければ命に関わるからです」

酒蔵から紡績工場へ。
佐藤繊維のものづくりの原点

その後、輸入に頼っていたウールは、戦争による経済制裁で供給がストップします。そこで国は、国内での羊の飼育に乗り出しました。

A girl sits in front of a glass enclosure with a mounted goat.

「雪深い山形や福島では、農家が家の中で馬や牛を飼っていました。そこに目をつけ、『冬は外で飼えないから、馬や牛と一緒に家の中の納屋で羊を飼おう』ということになった。これが成功し、山形と福島で羊の飼育が広がっていったんです。刈り取った羊の毛から手で糸を紡ぎ、防寒用のマフラーなどを作った。それが現在の『ニット産地・山形』のルーツなのです」

 

戦後、羊の飼育は途絶えたものの、編み物の技術はこの地に残りました。佐藤繊維も、農家から羊の毛を集め、手で糸を紡ぐところから始まりました。その後、二代目が大きな転機を迎えました。

 

「戦争中に廃業した地元の大きな酒蔵がありました。そこをなんとか有効活用できないかという話になったんです。ちょうどその時、私の祖父(二代目)が倉敷まで行って、石蔵で糸を作っている工場を見た。それに感銘を受けて、酒蔵の建物を一つひとつ解体して移築し、そこで紡績工場を始めたんです」

Stone building corner with gray door and several windows.

この石蔵は現在、セレクトショップ「GEA(ギア)」として生まれ変わり、県外からも多くの人が訪れています。そして工場は隣接・近隣の建物へと展開し、現在は原料の仕入れから紡績、染色、編み立てまでをすべて自社で行う、国内でも数少ない一貫した生産体制を築き上げました。

 

「近年では、BRINGのような再生ポリエステルとウールを組み合わせた新しい糸づくりや、無縫製で編み上げるホールガーメント技術を使い、アウトドアブランドやヨガウェアなど、今までになかったジャンルでのウール製品を生み出しています」

「美しい糸」の答えは一つじゃない。
ヨーロッパに学び、独自の道へ

続いて見せていただいたのは、糸づくりの工程です。

 

特別に見学させてもらった「試紡室」には、さまざまな実験的な糸を生み出すための機械が並んでいました。佐藤社長は、羊から刈り取ったばかりの毛(原毛)を手に取り、糸ができる原理を実演してくれました。

Person speaking in a workshop surrounded by machinery and equipment.

「うねうねとした毛には、羊自身の体を守っていた油分や汚れが残っています。これを洗うと、きれいな羊毛になります。ただ、洗っただけでは、まだ糸にはできません。毛同士が絡み合っているからです。

そこで、まずは剣山のようなもので絡み合った羊の毛をほぐし、一定方向に揃えます。これを「カード」と呼びます。絡みが強い状態でいきなり細かな針を使えば、繊維が切れてしまう。そこで、最初は粗い針から始め、少しずつ細かな針へと変えていきます。

Person demonstrating craftsmanship in a workshop, holding a piece of material.
Person inspecting a long sheet of paper in a workshop.

そして、この束を細く引き伸ばしながら、回転させて「撚り(より)」をかける。すると、繊維同士が絡み合ってまとまり、切れそうで切れない、一本の丈夫な糸になるんですよ。撚りをかけすぎるとそこから先へ伸ばせませんし、かといって、伸ばしすぎれば切れてしまう。 絶妙な感覚で紡ぐのが、職人の技なのです」

Person spinning yarn on a spinning wheel in a workshop setting.
Person using a spinning wheel to create yarn.

原毛から糸へ。
職人の感覚が生み出す一本

かつて手作業で行われていたこの工程は、約250年前のイギリスの産業革命によって機械化されました。しかし、ヨーロッパの国々によって、「美しい糸」の捉え方がそれぞれ異なっていたのだといいます。

 

「イギリス人は合理的でした。機械で効率よく作り、多少の太さのムラも『天然繊維の味』としてツイードなどに活かしました。しかし、フランス人はそれを許さなかった。『ムラのない、均整の取れた細い糸こそが美しい』と、人間の手の感覚を再現するような複雑な機械を生み出しました。一方イタリア人は、『もっと楽しくて変わった糸が欲しい』と、ファンシーヤーン(意匠糸)の文化を発展させていきます」

Spools of thread hanging on a manufacturing machine.

かつて日本の紡績産業は、ヨーロッパの技術をベースに「高速化・大量生産」を追求しました。しかし、安価な海外生産の波に飲み込まれ、多くの工場が姿を消していくことになります。その中で、佐藤繊維はなぜ生き残り、世界のブランドから指名される存在になったのでしょうか。

 

「私たちは、量産品を追いかけることをやめました。その代わり、和紙の周りにウールを巻きつけるなど、ヨーロッパには作れない、世界でうちだけの独自の糸づくりに特化したのです。『変態的な糸』と『誰も見たことのない編み地』を作る。それが私たちの生き残る道でした」

Person working in a textile factory surrounded by machines and materials.
Colorful strands of yarn hanging on a display rack.

一本ウールの可能性を引き出す、独自の糸づくり

その独自の糸づくりは、BRINGとの製品作りにも活かされています。 BRINGのプロダクトに使われている糸には、アウトドアシーンで活躍するためのさまざまな仕掛けがありました。

A woman in a white long-sleeve shirt stands on a street.
Person standing in nature, wearing a gray sweater, with a green landscape behind.
A woman in a green sweater stands outdoors, touching her hair.
Person wearing a purple hooded sweater in a misty outdoor setting.

「ただウールを紡ぐのではなく、芯となる糸と外側のウールのスピードを変えて紡績しています。そうすることで意図的にウールが『ダブつき』、凹凸のある糸になるんです。この凹凸が重要で、肌に面ではなく『点』で触れるため、汗をかいてもベタつかず、ドライでサラッとした着心地を実現しています」

A woman sewing fabric at a sewing machine in a workshop.
Person holding a yellow shirt in a warehouse setting.

さらに、凹凸があることで空気の層が生まれ、体温を自然に蓄える。ウール本来が持つ「自分の体温で温め、自然に温度を調整する」という機能性を、糸の構造からデザインしているのです。

Person sitting on an air conditioning unit, wearing a sweater and shorts.
Person with bobbed hair wearing an orange sweater, outdoors with cloudy background.
Two individuals standing on a rooftop, wearing sweaters against an industrial backdrop.

4,000種類の糸が眠る、佐藤繊維の「心臓部」

最後に案内していただいたのは、佐藤社長が「うちの会社の心臓部です」と語る、広大な倉庫でした。

 

「ここには4000種類以上の糸が保管されています。実はこれ、過去のサンプル作りなどで『余った糸』なんです」

Two people standing in a storage area filled with boxes and materials.

通常、アパレルのものづくりでは、サンプル製作などで発生した残糸が廃棄されることも少なくありません。しかし佐藤繊維では、35年間、一度も糸を捨てたことがないといいます。そうした残った糸にも一つひとつ名前をつけて保管し、再びサンプルや製品作りに使っているそうです。

 

SDGsやサーキュラーエコノミーという言葉が取り上げられるずっと前から、佐藤繊維は「『もったいない』という日本の文化をビジネスの仕組みとして成立させ、経営が厳しい時期を生き抜く術にもしていました。

A man stands among boxes in a dimly lit storage area.

「これからのブランドにとって、余った糸や布を捨てずに循環させていくことは、すごく大事なストーリーになると思います。私たちが作っている糸には、そうした思いが込められていることを、ぜひ知ってもらいたいですね」


この後私たちは、一本の糸から服を編み上げるホールガーメント工場と、美しい色を生み出す染色工場を見学しました。

 

その模様は、後編の記事でお届けします。

 

▶︎ 後編の記事はこちら

撮影:Akane Matsumoto

取材・執筆:熊沢紗世

佐藤繊維とBRINGが作る
WUNDERWEARシリーズ

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