― あんまり先を見て走ってないな。
はっきりとした目標はまだ見つかっていない。
INTERVIEW01 ナショナルシリーズレースを終え、見据える未来は | 高橋龍宇
2022.11.28
思いがけない言葉だった。自他ともに認めるランニング愛で数々のレースに挑戦する姿に、きっと明確なゴールを見据えているのだろうと感じていた。
今回インタビューしたのは、BRINGスタッフ兼アンバサダーランナーの高橋龍宇さん。OMM LITE 2019総合2位という輝かしい成績を持つトレイルランナーでありながら、アパレル業界に長く勤める。地球環境を脅かす大量生産・大量消費のシステムに疑問を感じ、2020年、BRINGへの転職を決めた。
そんな龍宇さんは今年、6月から9月にかけて行われたゴールデントレイルナショナルシリーズに出場。それぞれのレースの感想と、全レースを終えた今、胸に抱く想いを聞いた。
ゴールデントレイルナショナルシリーズ ジャパン(出場レース)
一戦目 6月12日 マウント湯沢アウトスタンディング(57km男子)
二戦目 7月3日 セントラルアルプススカイラインジャパン(38km男子)
三戦目 7月17日 The 4100D マウンテントレイル in 野沢温泉(出場辞退)
四戦目 8月7日 小谷トレイルオープン in 栂池(27km男子)
最終戦 9月4日 白馬国際クラシック(50km男子)
― 一戦目の、「マウント湯沢アウトスタンディング」はどうでしたか。
龍宇 雨が降っていて、ドロドロのサーフェスでした。くるぶしまで埋まっちゃうような泥の中に、足突っ込んだりして。しかも、ほぼ真下に落ちるような急斜面を滑りながら降りていくところがあって、トレイルランニングに慣れている僕でもさすがに怖かったです。ゲストランナーとして、そうそうたるロードレーサーたちが名を連ねていたのですが、ずっとトレイルで走ってきた人たちが上位に入っている印象でしたね。
― そんな番狂わせが…。
龍宇 トレイルを走るにはテクニックがいるんですよね。しかも今回は雨で難易度が上がってしまった。みんな泥だらけで走っていました。最終順位を見たとき、真ん中より上だったのは嬉しかったです。もともと下りは得意だったんですが、悪路でも走れるスキルがあるんだと自信を持てました。
― 一戦目から波乱の幕開けでしたね。それに比べると、この後のレースは走りやすくなると言われていましたが、次の「中央アルプススカイライン」も雨だったと聞きました。
龍宇 スタート時点ではシャワーのような霧雨でしたが、すぐ樹林に入ったので、ほぼほぼ雨が降っている感覚なく走れました。後半はザーザーと降ってきたので、そこは一戦目の湯沢を思い出すような感じでしたね。ただそれがコースの滑りやすさに影響する前に、僕は帰ってこられたなという印象でした。速い人は、トレイルが荒れる前に走り切ることができるので、それが利点だったりもします。
― コースのレイアウトはどうでしたか?
龍宇 スタートからすぐに1,000mの登り、下って次は800mの登りとアップダウンの激しいコースでした。そこまで難しい地形ではなく、誰もが楽しめる下りだったように思います。登りの速い人がそのままの勢いで下って、上位にランクインしていましたね。落ち葉の上を走るような、ふかふかなトレイルだったのも良かったです。僕が最初併走していた大学生の子は、今回が初レースだと言っていましたね。老若男女たくさんの方で賑わっていて、人気なレースの理由が分かりました。
― 次は、「小谷トレイルオープン」ですね。高原地域とはいえ夏真っ盛りのレースでしたが…。
龍宇 とにかく暑かった!30℃いくかいかないかという気温だったんですが、終日ピーカンで直射日光がキツかった。スキー場のゲレンデがコースになっていたから、日光を遮るものが無くて。その中で、かなり急斜面な登りが2回。下りも山道のように石や岩がないから、ブレーキがかからず、ずっと藁の上を走っているような感覚でした。2回目の登りで8人くらいに一気に抜かれて、結果は26位。とにかく辛くて、途中何度も止まってしまいました。
― 熱中症みたいになっていたのでしょうか。
龍宇 たぶん、塩分もミネラルも全然足りていなかったんだと思います。2つ目の山を下りると、ゴールまで残り10km。その時点でもう、前腿、膝、ふくらはぎが全部いっぺんにつりそうなくらい疲れていました。そこに第3エイドがあったから助かった…。現地のトマトスープ、おにぎりと漬物、あとめちゃくちゃ甘くて美味しかったのが白トウモロコシ。これで足が回復して、最後ゴールまでいけました。今回エイドがすごく良くて、他の大会に比べてスタッフさんたちが若かったのも印象的でした。
― 村を上げて盛り上げているんですね。
龍宇 冬はスノボやスキーで盛んだし、夏も豊かな自然に恵まれている白馬・栂池は、近年夏の観光にも力を入れている雰囲気を感じます。それで今大会も盛り上げようっていうのはあったのかなと思います。
― ラストは9月の「白馬国際クラシック」ですね。このレースはどうでしたか。
龍宇 9月末に110kmのレース(信越五岳トレイルランニングレース)を走る予定だったので、その練習を兼ねて50kmのコースに出場しました。トレランでいえば、中距離のレースです。小谷の反省を生かして、暑さ対策として塩分・ミネラル補給、さらに登りで脚の負担を減らせるストックを携えて挑みました。大会自体は1,700人のエントリーがあり、物販のほうも賑わって、まさに最終戦にふさわしい雰囲気でした。ありがたいことに、BRINGのTシャツも完売で。
― 気候はどうでしたか。秋口ということで、少し気温が落ち着きましたか。
龍宇 いや、暑かった。曇り/雨という予報だったんだけど一切降らず、気温も28度くらいまで上がったと思います。体感としては、小谷のレースと同じくらいキツかったです。今回初めて使ったストックは、急な坂を登る際にかなり効果がありました。さらに補給食も工夫して、45分ごとに固形食とジェルを交互に摂取するというやり方を試してみました。それに加えて、10kmごとにBCAAという筋肉疲労の回復を助けるサプリも摂って…。レース中はよく分からなかったけど、翌日に普通に歩くことができたので、効果があったと知れたのは大きな収穫でした。
― 中・長距離のレースは今まであまり走ったことがなかったですか。
龍宇 過去最高が72km、この白馬のレースは過去3番目の長さでした。その後挑戦した信越五岳の110kmはもう未知の世界で。110kmを完走出来たら、次は100マイル(165km)のエントリー権がもらえる、登竜門的な位置づけです。100マイルの次は、海外のレースを目指す道のりが始まります。
― 一つひとつのレースが通過点なんですね。「この距離を走り切ったら終わり」ではなくて、そこでの学びがどんどん次に繋がって、終わりのない旅路のように感じました。龍宇さんは何か長期的な目標はお持ちですか。
龍宇 それが、あんまり先を見て走ってないんですよね。たまに考えるけど。何を目標にしているんだろうって。トップを目指すとか、そういうことではないんだろうなと思っています。でもトレランして、みんなでキャンプして、お酒飲んで帰るっていうライフスタイルが好きだから、そういう生き方はずっと続けていきたい。大きな怪我さえしなければ、定年後に海外のステージレースに出て、妻と旅行しながらオーストリアやフランスのアルプスの山も走ってみたいです。もちろん日本の山も。走り続けていたら、いつかムーンショットといえるような目標が見つかるんじゃないかと期待しています。その時、どんな未来になっているんでしょうね。環境問題も含めて、日本人がどう変わっているんだろう。それまで僕も、BRINGでの仕事を通じて、大好きな自然と関わり続けていきたいです。
OMM LITE 2022(長野県白馬村、小谷村)には夫婦で出場
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